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【読了ガイド】『The Black Sutra』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『The Black Sutra』│収録作品・購入方法まで紹介

本書は、ウォルター・デブリルによる短編集で、281ページの充実したボリュームを持つ作品集である。

2006年にMythos Booksから刊行され、ロバート・プライスによる3ページの序文が付いている。1970年代初頭から2000年代まで約40年間にわたる作品を収録しており、クトゥルフ神話ではなくムランドス神話について扱った作品集である。

表題となっている「The Black Sutra」は作者が創造した魔導書で、宇宙に潜む狂気の神ニグリ・コラス(ヌギルコーラス)や地球の生命力の化身ともいえる豊饒の女神イドラについて記されている。アザトースと対になるヌギルコーラスの作品が含まれている点が特徴的である。

  • Introduction
  • “Prologue:Collector’s Item”
  • “From the Sea”
  • “Night Sounds”
  • Ngyr-Khorath
    • 医学生エリックの死の謎を追い、同じチームの仲間が彼の残したノートを読み解いていく。
      そこには常識を超えた衝撃の真実が記されていた。
      宇宙の真理を探求する彼らは、危険な薬物によるトリップで現実と幻想の境界を越え、星々の間を自由に行き来していた。
      エリックはついに「何か」を見てしまう。
      ノートには宇宙誕生の瞬間から、すでに存在していたヌギル=コーラスについて記されていた。
      無限の時を静寂の中で過ごしていたその存在が、地球の誕生と生命の出現を目の当たりにし、平穏を乱された怒りから生命への憎悪を抱いて世界を破壊せんとする行動を始める。
      太陽の中にさえ潜むこの得体の知れない存在こそ、エリックが目にした生物の正体だったのか。
  • “In ‘Ygiroth”
  • “The History of the Great Race”
  • “Red-Litten Yoth”
  • “Blue-Litten K’n-yan”
  • “Homecoming”
  • “What Lurks Among the Dones”
  • “R’lyeh”
  • “Predator”
  • “The Lure of Leng”
  • Where Yidhra Walks
    • テキサスの広大な平原を横断中のコバックスは、従姉妹を訪ねる途上でハリケーンによる洪水により小さな町ミランドに足止めされる。
      閉鎖的でよそ者を嫌う町で宿も見つからず途方に暮れるが、同じく外から来たクレイマーと出会い厚意で宿を提供してもらう。
      日が経つにつれ町の異様な雰囲気を感じ始め、住民たちの不自然な態度、夜な夜な聞こえる奇妙な唱和、そしてひそひそと囁かれる「イドラ」という名前に直感が反応する。
      クレイマーの助けを借りて調査を進めると、イドラは大地の母なる神で町のほとんどの住民がこの存在を崇拝する秘密結社に加わっており、会員には特別な「贈り物」が与えられるが代償も伴うという真実が明らかになる。
  • “Fragment from the Necronomicon”
  • “Perilous Legacy”
  • “Heart Attack”
  • “The Horror from Yith”
  • “A Movement in the Grass”
  • “The Oldest Dreamer”
  • “The Barret Horror”
  • He Who Comes at the Noontime
    • 干からびた大地の小さな集落で、絶望的な状況の中でも希望を捨てないベルナルトが必死に地面を掘り進めて水を求めていた。
      そんな日々に一人の謎めいた旅人が現れると奇跡が起こる。
      枯れた土地から水が湧き出し、死んだ者たちが蘇るという信じがたい出来事が起こった。
      場面は一転、懐疑的な科学者スティーブンの視点へ。
      非科学的な出来事を頑なに信じない合理主義者の彼が、ある出来事をきっかけに怪しげなカルトに潜入する。
      最後の関門でハーレクインから語られたのは、ヌギル=コーラスとパイゴンの衝突、1億8千年の時を超えてやってきた、異星の種族という人知を超えた壮大な創世神話だった。
      二つの章が交錯し繋がる時、真実が明らかになる。
  • “The Feast”
  • “Control”
  • “That Which Devours”
  • “The Bookseller’s Second Wife”
  • “Solar Pons & the Cthulhu Mythos”
  • “Lament”
  • “How Nogoch Koos Met the Xtaaby”
  • “Natty”
  • “What Sort of Man”
  • “The Changeling”

出版社:Mythos Books

発売日:2006/9/30

ページ数:300ページ

価格:紙版:3733円(中古で価格変動有)

良い点

  • ウォルター・デブリルは世界構築のラヴクラフト的ゲームに無制限の豊かさでアプローチしている
  • 彼の物語は真の古き者らしい奇妙さの多層ケーキのような構成
  • 複雑な世界観で、古代末期のグノーシス派の司祭のような役割を果たしている
  • 巻頭の出版履歴リストが非常に有用で、こうしたコレクションのモデルとなるべき

気になった点

  • 不気味なものがじわじわと浸透する恐怖より、血と暴力に対する恐怖の方が印象が強い
  • 大部分の物語が模倣や使い古された神話の決まり文句のレベルを超えていない
  • 読み進めるのに苦労し、数ページずつしか読めない状況が続く
  • 内容の大部分が記憶に残らない

こんな人におすすめ

  • 筋金入りの神話ファン
  • ムランドス神話に興味がある人
  • ヌギルコーラスやイドラという神格について知りたい人

本書は、ウォルター・デブリルによる約40年間の創作活動を包括した作品集である。

ラヴクラフトらしい独自のアプローチと複雑な世界観により、神話の新たな地平を示した。その一方で、作品の質のばらつきと読みやすさの問題も抱えた、評価の分かれる一冊となっている。