【読了ガイド】『クトゥルフ神話カルトブック エイボンの書』│収録作品・購入方法まで紹介
はじめに
本書は、ケイオシアム社の”The Book of Eibon”の完訳版で、魔道書エイボンの書をイメージした短編集である。
かつてヒュペルボレイオス大陸にいた魔道士エイボンと、その弟子によって綴られた魔導書という体裁で構成されている。
リン・カーターによる試みを、その没後ロバート・M・プライスらが完成させた作品で、6つの書(第一から第五の書および補遺)からなる。クラーク・アシュトン・スミスの「白蛆の襲来」が『エイボンの書』の一章であるという設定を元に制作され、様々な作家による小説、祈祷文としての詩、儀式魔術の手引きなどを収録している。
収録作品リスト
- 「ムートゥーランの地図」
- 「日本語版への序」 (ロバート・M・プライス)
- 「黒檀の書『エイボンの書』序論」 (ロバート・M・プライス)
- 「『エイボンの書』の歴史と年表」 (リン・カーター)
- 「ヴァラードのサイロンによるエイボンの生涯」 (リン・カーター)
- 「エイボンは語るもしくはエイボンの箴言」
第一の書 古の魔術師たちの物語
- 「二相の塔」 (リン・カーター)
- 「スリシック・ハイの物語」 (ジョン・R・フルツ)
- 「モーロックの巻物」 (リン・カーター)
- 太古の時代、蛇人間の支配から解放されたヴーアミ族。
ラーン=テゴス神を崇めるノフケー族が統治するハイパーボリアに進出し、神秘的な『モーロックの巻物』を手に入れる。
しかし度重なる抗争に疲弊し地底へ逃れた彼らは、太祖ヴーアムの導きで新たな神ツァトゥグァへの信仰を深める。
野心に満ちた祈祷師イエーモグは大祭司の座を熱望するも拒絶され、復讐心に駆られてツァトゥグァの神殿に封印された『モーロックの巻物』を盗み出す。
魔術で門番を眠らせ聖域に忍び込んだ彼は、敵対する神の儀式をツァトゥグァの聖域で執り行う想像を絶する冒涜を企む。
- 太古の時代、蛇人間の支配から解放されたヴーアミ族。
- 「深淵の降下」 (ジョン・R・フルツ)
- 「羊皮紙の中の秘密」 (リン・カーター)
- 「下から見た顔」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「アボルミスのスフィンクス」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「万物溶解液」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「白蛆の襲来」 (クラーク・アシュトン・スミス)/「極地の光」 (クラーク・アシュトン・スミス、リン・カーター)
- ムー・トゥラン半島を真夏の凍てつく寒波が襲う中、魔道士エウァグは異常気象の真実を探ろうとする。
海岸に漂着したガレー船には凍りついた死体だけが残され、炎すら寄せ付けない冷たさを持っていた。
沖合いに現れた巨大氷山から放たれる異様な光は触れたものすべてを凍結させ、唯一生き残ったエウァグは氷山の中へ引き込まれる。
そこで出会った二人の魔道士は、エウァグが巨大な白蛆ルリム・シャイコースに仕えるべく選ばれた者だと告げる。
白蛆の要塞イイーキルスが大陸沿いを移動し始めるが、エウァグの心には反逆の炎が燻り続けていた。
- ムー・トゥラン半島を真夏の凍てつく寒波が襲う中、魔道士エウァグは異常気象の真実を探ろうとする。
- 「窖に通じる階段」 (クラーク・アシュトン・スミス、リン・カーター)
- 「星から来て饗宴に列するもの」 (リン・カーター)
- コモリオムで代々治安官を継ぐ名家の29代目ヴース・ラローンは、前任者の早すぎる死により突如その職を継ぐことになった。
治安官の仕事は形だけで、彼の情熱は魔術の研究と夜の遊びに向けられていた。
忘れられた神ズヴィルポグアを崇める秘密結社の存在が明るみに出ると、ヴースは襲撃隊を率いて儀式場を急襲し、奇怪な神像を衝動的に破壊してしまう。
その瞬間から幻影に悩まされるようになり、魔術仲間ゾンギスから「星から来た饗宴の参加者」の名を告げられ、元教団員イズドゥゴールからズヴィルポグアの禁断の知識を授かる。
好奇心と恐れに揺れながらも禁忌の儀式準備を始める。
- コモリオムで代々治安官を継ぐ名家の29代目ヴース・ラローンは、前任者の早すぎる死により突如その職を継ぐことになった。
- 「緑の崩壊」 (ロバート・M・プライス)
第二の書 ムー・トゥーランのエイボンの逸話
- 「最も忌まわしきもの」(クラーク・アシュトン・スミス、リン・カーター)
- 「ウトレッソル」 (クラーク・アシュトン・スミス、ローレンス・J・コーンフォード、リチャード・L・ティアニー)
- 「『夜の書』への注釈」 (ロバート・M・プライス)
- 「地を穿つもの」 (ロバート・M・プライス)
- 「ナスの谷にて」 (リン・カーター)
- 「シャッガイ」 (リン・カーター)
- 禁断の知識を求める魔道士エイボンは、ファロールを三度召喚してナコト写本の秘密について問い、「ピラミッドを目指せ」という謎めいた言葉だけを得る。
幽体となって異界の知識を探る旅に出たエイボンは、暗黒の惑星ユゴス、星間のクシミールを旅する。
最後にムトゥーラで、ズーリアイという種族から「シャッガイへ行くべし」という導きを受ける。
幾多の世界を経てシャッガイに辿り着いたエイボンの目に映ったのは、想像を絶する規模の巨大なピラミッド型建造物だった。
この異形の建築がファロールの示した目的地であり、そこには求め続けた秘密が眠っているのか、それとも人知を超えた恐怖が待ち受けているのか。
- 禁断の知識を求める魔道士エイボンは、ファロールを三度召喚してナコト写本の秘密について問い、「ピラミッドを目指せ」という謎めいた言葉だけを得る。
- 「ウルノールの亡霊」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「霊廟の落とし子」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「指輪の魔物」 (ローレンス・J・コーンフォード)
- 「土星への扉」 (クラーク・アシュトン・スミス)
- 王国の権力者神官モルギと、魔道士エイボンの確執は誰もが知るところだった。
モルギの追及から逃れるため、エイボンは邪神ゾタクアの助言で異界への扉をくぐり惑星サイクラノーシュへたどり着く。
執念深いモルギも追跡の手を緩めず、見知らぬ世界で再会した二人は不本意ながら旅を共にする。
神フジウルクォイグムンズハーから、エイボンに託された謎めいた言葉「イクイ・オドシュ・オドフクロンク」を神託と受け止める。
エイボンが土星人ブフレムフロイム族にmその言葉を告げると賓客として歓待される。
しかし文化の違いに戸惑い逃亡を決意する。
神託の真の意味とは何か。
- 王国の権力者神官モルギと、魔道士エイボンの確執は誰もが知るところだった。
第三の書 暗黒の知識のパピルス
- 「暗黒の知識のパピルス」 (リン・カーター)
第四の書 沈黙の詩編
- 「ツァトゥグアへの祈願文」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「アトラック=ナチャへの祈願文」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「背教者イズダゴルの祈り」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「大神ヨク=ゾトースへの祈り」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ギズグスの慰撫」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ファロールの召喚」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「応えざる神々」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ハオン=ドルの館」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「暗黒の妖術師」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「黙想する神」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「サイクラノーシュへの扉」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ハイパーボリア」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ズスティルゼムグニの手先」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「イクナグンニスススズ」 (リチャード・L・ティアニー)
- 「ウボ=サスラ」 (マイケル・ファンティナ)
- 「アザトース」 (マイケル・ファンティナ)
- 「ツァトゥグア」 (マイケル・ファンティナ)
- 「ルリム・シャイコース」 (マイケル・ファンティナ)
- 「灰色の織り手の物語(断章)」 (アン・K・シュウェーダー)
- 「ムー・トゥーランでのアブホースへの祈願文」 (アン・K・シュウェーダー)
- 「ヴ―アミによる救済の讃歌」 (アン・K・シュウェーダー)
- 「サクサクルースの懇請」 (ロバート・M・プライス)
第五の書 エイボンの儀式
- 「緑の崩壊」 (スティーブン・セニット)
- 「穴から吐き出されしもの」(スティーブン・セニット)
- 「イググルルの呪文」 (スティーブン・セニット)
- 「グローニュの憎悪の呪い」 (スティーブン・セニット)
- 「プノムの厳命」 (スティーブン・セニット)
- 「ザスターの連祷」 (スティーブン・セニット)
- 「フナア式文」 (スティーブン・セニット)
- 「リヴァシイの加護」 (スティーブン・セニット)
- 「イアグサトの悪魔払い」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「ヤディスの黒い儀式」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「ムナールの忘れられた儀式」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「キノスラブの葬送歌」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「外なる虚空の儀式」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「アザトースの灰色の儀式」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「黒い炎の崇拝」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「ナグとイェブの黒き連祷」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「汝の敵を打つためにツァトゥグアを招来せし法」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「「ヨスの放射」ゾグトゥクを召喚し命を与える法」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「ズィンの害悪の中を自由に歩く法」 (ジョゼフ・S・パルヴァ―)
- 「夕べの夜」 (マイケル・シスコ)
- 「イステの消滅の印形」 (トーマス・ブラウン)
- 「スガンドロムの九つの五芒星形」 (トーマス・ブラウン)
- 「緋色の印」 (トーマス・ブラウン)
- 「三重に描かれた「力の円環」」 (トーマス・ブラウン)
補遺
- 「炎の侍祭」 (リン・カーター)
- 「月の文書庫より」 (リン・カーター)
- 「アトランティスの夢魔」 (ロバート・M・プライス)
- 「エイボン書簡」 (ロバート・M・プライス、ローレンス・J・コーンフォード)
文庫版仕様の詳細
出版社:新紀元社
発売日:2008/6/27
ページ数:392ページ
価格:紙版:2420円
購入ガイド
- Amazon:「クトゥルフ神話カルトブック エイボンの書 | C・A・スミス, リン・カーター, ロバート・M・プライス, 坂本 雅之, 中山 てい子, 立花 圭一 |本 | 通販 | Amazon」
読者レビューまとめ
良い点
- タイスンのネクロノミコンとは違う切り口で作り上げた「架空の魔道書」として成功している
- 魔道書という体裁を徹底しており、小説だけでなく祈祷文や儀式魔術の手引きまで載せているこだわりが見られる
- 聖書学者プライスの面目躍如で、カーター版『ネクロノミコン』より徹底した構成になっている
- TRPGの資料に本書から引用された記述もあり、よりディープな楽しみ方ができる
- クトゥルフ神話体系の知識を深めたい人には価値の高い内容
- 「実際に『エイボンの書』を作ってしまおう」という野心的な試みが実現されている
- 古の魔術師たちやエイボンの業績、暗黒の神々について体系的に学べる
気になった点
- 一定以上の神話知識がないと、理解が追い付かない
- クトゥルフ神話体系に深く通じていない者には理解が困難
- ハードカバー本や文庫本として出版されていないため、格好がつかない
こんな人におすすめ!
- クトゥルフ神話体系に深く通じている人
- TRPGでよりディープな楽しみ方をしたい人
- 魔道書という体裁の架空書物に興味がある人
- タイスンのネクロノミコンとは異なるアプローチの魔導書を求める人
- リン・カーターやロバート・M・プライスの作品に興味がある人
- 祈祷文や儀式魔術などの神話的要素を資料として活用したい人
まとめ
本書は、魔道書という特殊な体裁を通じて、クトゥルフ神話の世界観を深く探求した意欲的な作品集である。
リン・カーターの構想をプライスらが完成させた結果、単なる小説集を超えた総合的な神話資料として、クトゥルフ神話の理解を深める貴重な一冊となっている。




