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【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション5』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション5』│収録作品・購入方法まで紹介

新訳5

本書は、H.P.ラヴクラフトの短編11篇を収録した作品集で、ミスカトニック大学やアーカムを舞台とする物語を中心に構成されている。

収録作品には、表題作「宇宙の彼方の色」をはじめ、「ハーバート・ウェスト 死体蘇生者」「魔女の家で見た夢」「暗闇で囁くもの」「冷気」などが含まれる。科学の英知と古き智慧の邂逅をテーマに、宇宙の秘密に迫る物語群となっている。

  • 彼方より
    • 天才科学者クロフォード・ティリンギャーストは、人類の知覚の限界を打ち破る装置を開発した。
      親友である語り手を実験室に招いた彼は、人間の目では捉えられない紫外線の世界を見せる。
      実験が進むにつれ、これまで空虚だと思われていた空間に、水母のような不定形の物体が漂い始める。それらは幽霊のように語り手の体をすり抜けていく。
      現実と非現実の境界が溶け始める中、ティリンギャーストの実験はさらに奇怪な展開を見せ、未知の領域で人知を超えた存在との遭遇が待ち受けている。
  • 家の中の絵
    • 家系調査中の語り手は豪雨に見舞われ、ミスカトニック渓谷の朽ちかけた農家に避難する。
      現れた老人は年齢に反して血色が良く逞しい体つきで、失われたニューイングランド方言を話していた。
      テーブルの古書は1589年版『コンゴ王国』という希少本で、人肉嗜食のアンジック族の肉屋を描いた第十二図が頻繁に開かれていた。
      老人はセイラムの船乗りから入手したこの書物について語り、絵が秘める邪悪な力を熱心に説明し始める。語り手は未知の恐怖に巻き込まれていく。
  • ハーバート・ウェスト 死体蘇生者
    • 天才医師ハーバート・ウェストは死者蘇生という禁断の実験に挑む。
      ミスカトニック大学医学部で生命を機械的なものと捉え、化学処理で死者を蘇らせる理論を追求する彼の姿は、狂気と天才の境界線上にあった。
      全6章にわたる実験は倫理の限界を超えていく。
      無縁墓地での密かな実験、学部長の蘇生実験、人種の壁を越えた実験、戦場での挑戦。
      しかし死者蘇生の危険性と倫理的問題が二人を追い詰める。
      第一次世界大戦後、ボストンに身を置く二人の医師を待つ、ウェストの偏執的探求が招く想像を絶する結末とは。
  • 冷気
    • 1923年春、平凡な下宿屋に住む無名の作家の日常が想像を絶する恐怖へと変わる。下宿人の中で異彩を放つのは引退した医師ムニョス博士だった。
      博士の部屋には常に奇妙な寒気が漂い、アンモニア吸収式冷房装置で室温を極端に低く保っている。これは18年前の病気の後遺症によるものと噂されていた。
      ある灼熱の夏の日、博士の冷房装置が故障する。語り手が修理を手伝おうとすると、博士が極度の低温を求める理由と、冷房装置の向こう側に潜む想像を絶する真実に直面することになる。
  • 宇宙の彼方の色
    • アーカムの貯水池建設に派遣された測量技師は、「焼け野」と呼ばれる荒涼とした土地を調査する。
      近隣住民アミ・ピアースは1882年の出来事を語り始める。
      ネイハム・ガードナー家に落下した隕石は異常な性質を持ち、「描写不可能な色」の球体が内部に存在していたが、球体が破裂し消滅する。
      その後、巨大化するが食用に適さない野菜や、奇怪に変異する動植物が現れる。
      状況に耐えられなくなったネイハムの妻ナビーが発狂し、続いてガードナー家の人々が次々と狂気に冒されていく。
      測量技師は宇宙からもたらされた未知の恐怖の正体に迫る。
  • 古の轍
    • ラヴクラフトのメモのような作品。
  • ユゴスよりの真菌
    • ラヴクラフトのメモのような作品。
  • 暗闇で囁くもの
    • 1927年バーモント州大洪水後、正体不明の死体が発見される。
      ミスカトニック大学のウィルマース教授は、地元住民エイクリイから地球外生命体の存在と金属採掘活動、人間の脳髄を使った宇宙旅行について記された手紙を受け取る。
      文通を続けるうち信じ始めるが、異星人と敵対していたはずのエイクリイが突如和解し、手紙の調子も別人のように変化する。
      招待を受けた教授がエイクリイ宅を訪れると、想像を絶する恐怖が待っていた。
  • 魔女の家で見た夢
    • ミスカトニック大学の学生ウォルター・ギルマンは、魔女の伝説が残る奇妙な角部屋に引っ越す。
      新居での生活が始まると、夢の中で手の生えた巨大な鼠「ブラウン・ジェンキン」に追われるようになる。
      現実と夢の境界が曖昧になり、夢遊病の兆候も現れ始める。
      ある日、人知を超えた不思議な空間で「古のもの」の像を手に取る夢を見たギルマン。目覚めると、夢の中で拾ったはずのその像が現実の部屋に転がっていた。
      この衝撃的な発見は彼の「夢」の本質に疑問を投げかける。
      魔女の伝説と異次元空間、古の存在が絡み合う中での結末とは。
  • 戸口に現れたもの
    • アプトンは幼なじみエドワード・ダービィを射殺し、法廷でその経緯を語る。
      ダービィはインスマス出身のアセナス・ウェイトと結婚後、人格が急変し狂気に陥る。アセナスは家に引きこもり、ダービィは運転すら忘れる異常事態に。
      アプトンはインスマスとウェイト家の血筋に、超自然的な謎があることに気づく。
      友人を救うべく真実を追求するが、想像を絶する恐怖の渦中へと巻き込まれていく。
  • 「断章」

出版社:星海社

発売日:2020/6/17

ページ数:464ページ

価格:紙版:1650円/電子版:1634円

良い点

  • 現代風の翻訳により非常に読みやすく、ラヴクラフト全集などで挫折した読者でも問題なく読める
  • 段落を大幅に増やしてぎっしり感をなくし、地図や写真、図版、註を随所に配置するなど読者に親切な構成
  • 一人称で描かれることによる不気味な不安感が魅力的で、好きな作品が多く収録されている
  • 「宇宙の彼方の色」はビジュアル的想像力に強く訴えかける迫力ある文章で「筆致が冴え渡っている」
  • 「暗闇で囁くもの」の宇宙人侵略ものを転倒させたような設定は新鮮で、物語のギアが切り替わる瞬間の奇妙さが印象的

気になった点

  • 古さびたニューイングランドが主な舞台のため、現代的な設定を想像していた読者には、時代背景が予想と異なる場合がある
  • 学術的・知的な探求をテーマとした作品が多く、よりダイレクトなホラー要素を求める読者には物足りない可能性

こんな人におすすめ

  • 2020年映画「カラー・アウト・オブ・スペース」の原作に興味がある人
  • ラヴクラフトの難解な文体に挫折した経験があり、読みやすい訳で再挑戦したい人
  • ミスカトニック大学やアーカムを舞台とする物語群に興味がある人
  • ビジュアル的な想像力を刺激する作品を求める人

本書は、ラヴクラフト作品の中でもアーカムに関わる物語を厳選した第5集として、現代的で親切な翻訳と編集により、幅広い読者にアクセスしやすい形で提供された優れた作品集である。

原作の意図を損なうことなく平易な日本語で表現され、ラヴクラフトの世界観を存分に味わえる一冊となっている。