01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
トップ > 作品一覧 > 短編集 > 【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション3』│収録作品・購入方法まで紹介
【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション3』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション3』│収録作品・購入方法まで紹介

新訳3

『クトゥルー神話傑作選3 這い寄る混沌』は、H・P・ラヴクラフトによるナイアルラトホテプをテーマとした作品群を中心とした短編集。

「ナイアルラトホテプ」「這い寄る混沌」「壁の中の鼠」「最後のテスト」「イグの呪い」「電気処刑器」「墳丘」「石の男」「蝋人形館の恐怖」「闇の跳躍者」の10編が収録されている。

ナイアルラトホテプに直接関わらない作品も含まれているが、混沌とした恐怖が這い寄ってくる様を、様々な状況から表現力豊かに描いた作品集として構成されている。現代風の翻訳で読みやすさが向上している。

  • ナイアルラトホテプ
    • 世界が激動の時代に突入し、人々の心に不安が渦巻く中、エジプトから謎めいた人物ナイアルラトホテップが現れる。
      彼が携えた装置はガラスと金属が織りなす幾何学的形状で、見たことのない電気応用技術を駆使していた。
      好奇心に駆られた語り手たちは彼の公演に足を運ぶ。そこで目にするのは現実と幻想の境界を超越する狂気の講演だった。
      視覚と聴覚を混乱させる幻惑的な光と音、そしてナイアルラトホテップが語る人知を超えた真実の数々。
      それは人類の歴史や宇宙の秘密なのか、それとも全くの狂言なのか。
  • 這い寄る混沌
    • 阿片の過剰投与により、語り手の意識は現実と幻想の境界を越えて未知なる世界へと誘われる。
      美しくも不可解な部屋の下から響く単調な音は、家の土台を蝕む巨大な波だった。
      現実世界の崩壊を象徴するかのように、足元の地は徐々に狭まっていく。
      逃げ出した先には砂の小道とヤシの木立が広がり、天から眩いばかりに美しい幼児たちが舞い降りてくる。
      彼らは救済の天使か、それとも深淵へ誘う魔性の存在か。阿片が紡ぎ出す幻想世界で語り手が直面する選択は、予測不能の結末へと導く。
  • 壁の中の鼠
    • 「殺人鬼の家系」として噂されるディラポア家に生まれた男は、故郷を離れ平穏な生活を送っていた。
      しかし妻の死と戦地での息子の死により、再び孤独となってしまう。性をデ・ラ・ポーアに戻した彼は、故郷イグザム小修道院へ帰還する。
      しかし夜になると飼い猫が異常興奮し、壁の向こうから鼠のような奇妙な音が聞こえ始める。
      調査の末、隠された祭壇の部屋を発見した彼は、親友ノリス大尉と共に一夜を過ごす。
      するとノリスは「鼠の音はもっと下から聞こえる」と気づく。
      デ・ラ・ポーア家の血筋に隠された恐るべき真実が明らかになる。
  • 最後のテスト
    • サンフランシスコの医学権威アルフリド・クラランダンは、旧友ドールトン州知事の要請でサン・クエンティン刑務所の医務長に就任する。
      黒熱病の猛威とパニックに陥る市民、それに対する彼の対応を糾弾する世論。しかしクラランダンの心は別の場所にあった。
      チベットから連れ帰った謎の人物スラマと密かに進める禁断の実験。
      妹ジョージーナの不安、ドールトンとの恋、ジョーンズ医師による権力闘争が事態を混沌へ導く。
      失脚し自宅に籠るクラランダン。科学者の野心と倫理が衝突する中で企てられる人類の限界を超えた実験とは。
  • イグの呪い
    • 1925年、オクラホマ州ガスリーの精神病院を訪れた考古学者の「わたし」は、地下病室に潜む人とも何ともつかない存在を目撃する。
      マクニール院長が語るのは36年前の奇怪な事件だった。1889年、オクラホマに新天地を求めたデイヴィス夫妻。
      夫ウォーカーは蛇への異常な恐怖を抱き、邪神イグの伝説におびえていた。
      妻オードリーがガラガラ蛇の仔を殺した瞬間、夫婦の世界に亀裂が走る。
      イグの報復を恐れながら過ごす夜々の果てに待つ想像を絶する運命。
      36年後に精神病院に収容された「何か」の正体とは。
  • 電気処刑器
    • メキシコ行きの列車の密室客室で、書類持ち逃げ犯フェルダンの追跡という単純な任務についていた無名の語り手が遭遇したのは想像を絶する狂気だった。
      胡散臭い怪しげな男が取り出したのは、フード状の電気処刑器具。その発明者を自称する狂人は「最初の実験台」として語り手を狙う。
      腕力での対抗を諦めた語り手に残されたのは知恵のみ。
      遺書を書くという口実や友人記者への売り込み話で時間を稼ぐが、それは一時しのぎに過ぎない。
      列車が目的地メキシコ・シティに到着するまでの極限状況での機知と狂気の対決。
  • 墳丘
    • オクラホマの深い森にある古い墳丘には、昼は老人の、夜は首のない女の幽霊が現れるという不気味な噂があった。
      調査に向かった者は行方不明になるか正気を失って戻るかのどちらかで、地元の人々もインディアンも避けて暮らしていた。
      1928年夏、一人の考古学者が調査に乗り出し、幽霊の姿を目撃する。調査中に発見した400年前のスペイン人探検家パンフィロ・デ・サマコナの手記には驚愕の内容が記されていた。
      洞窟で未知の生命体と地球外存在に出会い、地下世界の都市ツァスを訪れたサマコナの壮絶な脱出劇とその結末とは。
  • 石の男
    • 狂人と思われていたダニエル・モリスには秘密があった。彼が繰り返し読む『エイボンの書』の古い写本には、生命を石に変える化学式が記されていた。それは魔術ではなく単純な化学反応による急激な石化作用だった。彫刻家アーサー・ウィーラーへの嫉妬と、妻ローズを奪われるという妄想に取り憑かれたモリスは、ついにその禁断の力を使用する。次なる標的はローズ。愛する者を永遠の芸術に変えようとするモリスだが、予期せぬ展開が待ち受けていた。制御不能な力は彼の野望を達成させるのか、それとも彼自身を飲み込んでしまうのか。
  • 蝋人形館の恐怖
    • ロンドンのサウスウォーク・ストリート地下にあるロジャーズ博物館の特別室には、冒涜の神々を模したおぞましい蝋人形が並んでいた。
      オカルトマニアのジョーンズは館長ロジャースと親しくなるが、軽はずみな一言で関係が一変する。
      怒ったロジャースは展示品の一部が人工物ではないと告白し、禁断の書物を解読して北極地下の神を発見したと主張する。
      次第に興奮するロジャースは自らを神の神官と名乗り、ジョーンズに「博物館で一晩逃げ出さずに過ごせるか」という奇妙な賭けを持ちかける。
      蝋人形たちの間で過ごす恐ろしい夜が始まる。
  • 闇の跳躍者
    • 怪奇小説作家ロバート・ブレイクは創作の舞台を求めてプロヴィデンスに引っ越してくる。街に佇む古い教会の不気味な魅力に惹かれた彼は、住民たちの忠告を無視して足を踏み入れる。
      光を拒絶するかのように閉ざされた教会内部で、ブレイクは禁断の書物、謎めいた多面体、そして「星の智慧派」協会の儀式の痕跡を発見する。
      知ってはならないものを見てしまった彼の好奇心が引き金となり、町全体を覆う未知なる恐怖が目覚め始める。
      怪奇小説作家自身が最も恐ろしい物語の主人公となる運命が待ち受けていた。

出版社:星海社

発売日:2018//17

ページ数:480ページ

価格:紙版:1650円/電子版:1634円

良い点

  • ラヴクラフトが改稿したカストロ作品「最後のテスト」「電気処刑器」と、その改稿前の元作品を併せて掲載し比較読みができる
  • HPLの筆力によって元作品がより完成度が高く、ドラマティックな怪奇小説に生まれ変わっている過程が分かる
  • 「墳丘(雑誌掲載版)」が本邦初訳として収録され、完全版との比較が可能
  • 「闇の跳梁者」は得体の知れない何かが迫る恐怖をよく描いており、クトゥルー神話的な感じが良い
  • 巻末の解説が充実しており、作品の書かれた背景やHPLの思いが知れて面白い
  • 原文から改行箇所を増やし平易な言葉を選んで高いリーダビリティを維持
  • 充実した資料や注釈、地図が付属している オリジナルと改筆版の細部の違いを探す楽しみと、復習効果が期待できる

気になった点

  • ナイアルラトホテプの直接的な登場は少なく、言及されることが主で物足りない場合がある
  • 「魔女の家の夢」「未知なるカダスを夢に求めて」などの重要作品が未収録
  • 解題の頁数が減っている カストロの元作品「自動処刑器」は処刑器の描写なども含めて微妙な出来
  • イグの呪いなど、ニャルラトテップと関係の薄い作品も含まれている

こんな人におすすめ

  • ナイアルラトホテプに興味があるクトゥルー神話ファン
  • ラヴクラフトによる改作・代作の過程に興味がある人
  • 作品の比較読みを楽しみたい人
  • 充実した解説や注釈を重視する人
  • 混沌とした恐怖の描写を楽しみたい人
  • ラヴクラフトの神話を彩る様々な存在について知りたい人

本巻は、ニャルラトテップを軸としながらも、ラヴクラフトの創造した神々や混沌とした恐怖をテーマとした多彩な作品群を収めた短編集となっている。

特に注目すべきは、ラヴクラフトによる改作・代作とその元作品の比較読みができる構成で、作家の筆力と創作過程を具体的に理解できる貴重な機会を提供している。

ニャルラトテップの直接的な登場は限定的だが、続巻での収録が期待される重要作品もあり、シリーズ全体を通じてラヴクラフトの神話体系を段階的に理解できる構成となっている一冊といえる。