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【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション1』│収録作品・購入方法まで紹介

【読了ガイド】『新訳クトゥルー神話コレクション1』│収録作品・購入方法まで紹介

新訳1

『クトゥルー神話傑作選』は、H・P・ラヴクラフトによるクトゥルーをテーマとした作品群を集めた短編集。

「ダゴン」「神殿」「マーティンズ・ビーチの恐怖」「クトゥルーの呼び声」「墳丘」「インスマスを覆う影」「永劫より出でて」「挫傷」の8編が収録されており、海の怪異と沈んだ大陸に関わる作品を代作や共作も含めて編集されている。

クトゥルーというテーマで統一されているため一貫性があり、現代風の翻訳により読みやすさが向上している点が特徴となっている。

  • ダゴン
    • モルヒネに依存する語り手は過去の恐怖体験を綴り自害を決意する。
      大戦中、ドイツ軍に拿捕され脱出した彼は、漂流中に海底から隆起した巨大陸塊に流れ着く。
      乾いた泥を歩き丘の頂に辿り着くと、谷底に巨大な独立石を発見する。その表面には海棲生物の浅浮彫と不可解な碑文が刻まれた、人類の知らない古代文明の遺物だった。
      宇宙的恐怖を覗き込んだ男の壮絶な体験。
  • 神殿
    • 第一次大戦中、ドイツ海軍の潜水艦を指揮するプロイセン貴族カール・ハインリッヒは、英国貨物船を撃沈する。
      しかし潜水艦の手すりに敵船乗組員の死体が絡みつき、その遺品から「月桂冠をいただく若者の頭部」の象牙細工が発見される。
      この奇怪な品を境に艦内は狂気に蝕まれ始める。
      悪夢に苛まれる水兵たち、舷窓越しに見える幽霊のような死体、呪いを恐れ正気を失う者たち。機関室での爆発や艦内暴動が次々と起こり、伯爵の鉄の規律も効力を失う。
      海底に沈みゆく潜水艦が辿り着く驚愕の真実とは。
  • マーティンズ・ビーチの恐怖
    • マサチューセッツ州グロスター近郊のマーティン浜で、地元漁船クルーが想像を絶する巨大生物を仕留める。
      体長50フィート、直径10フィートの円筒形をした怪物は、科学者たちが調査した結果、まだ生まれて数日の幼体に過ぎないことが判明した。
      深海から来たと思われるこの生物の正体について、専門家たちの議論が沸き起こるが、展示された翌日、怪物を乗せた博覧船が姿を消してしまう。
      数日後、海から恐怖に引きつった悲痛な叫び声が聞こえてきた時、助けを求める声に村人たちは凍りつく。そこに現れたのは何だったのか。
  • クトゥルーの呼び声
    • 主人公サーストンは、亡くなった大叔父エインジェル教授の遺品を整理中、異様な資料群を発見する。
      彫刻家ウィルコックスの奇怪な作品と夢の記録、そこに記された謎の言葉「クトゥルー・フタグン」。
      警視正ルグラースもまた、ルイジアナ沼地のカルト教団が同様の呪文を唱える儀式を目撃していた。
      調査を進めるサーストンは、教団の儀式と同日に帰還した一隻の船の存在を知る。
      人知を超えた何かの実在を確信していく彼だが、真実に近づくほど世界の常識は崩壊していく。果たして人類は、この途方もない真実を受け入れられるのか。
  • 墳丘
    • オクラホマの深い森にある古い墳丘には、昼は老人の、夜は首のない女の幽霊が現れるという不気味な噂があった。
      調査に向かった者は行方不明になるか正気を失って戻るかのどちらかで、地元の人々もインディアンも避けて暮らしていた。
      1928年夏、一人の考古学者が調査に乗り出し、幽霊の姿を目撃する。調査中に発見した400年前のスペイン人探検家パンフィロ・デ・サマコナの手記には驚愕の内容が記されていた。
      洞窟で未知の生命体と地球外存在に出会い、地下世界の都市ツァスを訪れたサマコナの壮絶な脱出劇とその結末とは。
  • インスマスを覆う影
    • 1927年冬、マサチューセッツ州の港町インスマスが、政府の秘密作戦により爆破され地図から消えた。
      夏に遡り、成人祝いの一人旅をしていたロバート・オルムステッドは、アーカム行きの汽車チケットが手に入らずバスで移動することになる。
      途中でインスマスという町に立ち寄る。かつて繁栄したこの港町は流行病で住民の半数を失い、今や呪われた町として忌み嫌われていた。
      住民たちは奇妙な容貌をしており、手足は大きいのに耳や鼻は未発達で、魚や蛙を連想させる姿だった。
      バスの故障により一夜を過ごすことになったロバートの運命は。
  • 永劫より出でて
    • 1878年、南太平洋の未知の島で発見された謎めいたミイラと古代の秘密が刻まれた巻物を納めた金属円筒。
      調査隊が再訪しようとした時、島は忽然と姿を消していた。遺物はボストンのキャボット考古学博物館に収められ、世界有数のミイラコレクションで名を馳せる。
      1931年、ムー文明オカルトブームが巻き起こり、神秘家ド・マリニーは「このミイラこそ古代ムーの神官トヨグだ」と主張する。
      1932年12月、警備員が殺害され、ミイラを盗もうとした2人の侵入者も変死体で発見されるが、その死体には言葉では表現しがたい奇怪な特徴があった。
  • 「挫傷」

出版社:星海社

発売日:2017/11/16

ページ数:480ページ

価格:紙版:1650円/電子版:1634円

良い点

  • 平易な現代文に訳されており、創元推理文庫版より格段に読みやすい
  • 訳注で丁寧な補足がついており、世界史の知識があまりない読者でも理解できる
  • 詳細な訳注が分かりやすく、初心者にも親切な構成
  • 普段ライトノベル以外読まない読者でもほとんどの文章が理解でき、筆舌に尽くしがたいクトゥルーの断片を想像できる
  • 巻末にクトゥルー神話の年表や索引が付いており、初心者への配慮が行き届いている
  • シェアード・ワールドの世界観を共有した8作品により、読みながらクトゥルー神話の世界が脳内で有機的に構成される感覚が得られる
  • TRPG、スマホゲーム、『沙耶の唄』などで神話に触れた人の原作入門として最適
  • 40年前の翻訳と比べて不自然な部分が改善されており、現代語訳として感謝される内容

気になった点

  • 文中に挿し絵が全くなく、表紙絵だけなのが寂しい
  • 舞台が外国であることや理解できないものを扱う内容の都合上、想像しきれない部分もあ
  • 見たことがない表現や熟語は少数ながら存在し、検索が必要な場合がある

こんな人におすすめ

  • TRPGやスマホゲームでクトゥルー神話に触れたが原作は未読の人
  • 創元推理文庫版が読みづらいと感じた人
  • 『沙耶の唄』などの関連作品からクトゥルー神話に興味を持った人
  • 普段あまり本を読まないがクトゴルー神話の原点を知りたい人
  • 敷居が高いと感じていたが読みやすい翻訳を求める人
  • クトゥルー神話の世界観を体系的に理解したい初心者
  • 現代語訳での新しいラヴクラフト体験を求める人

本書は、クトゥルー神話の原点であるラヴクラフト作品への現代的なアプローチとして成功した短編集といえる。

海の怪異というテーマで統一された構成により、読者はクトゥルー神話の核心的な恐怖を段階的に体験できる。

現代風の翻訳と充実した注釈により、従来の翻訳では敷居が高かった作品群が、TRPG世代をはじめとする新しい読者層にも開かれた形で提供されている。クトゥルー神話入門書としての価値は極めて高く、原作の魅力を現代に伝える重要な架け橋となっている一冊である。