本作は43,100語の短めの長編小説で、1926年10月から1927年1月22日にかけて執筆された。初出はBWSで、後にArkham Sampler(1948年冬〜1948年秋)に再掲載された。校訂版はMMに、詳註版はDWHに収録されている。
ラヴクラフトは読者がランドルフ・カーターの冒険譚に飽きているのではないか、また怪奇幻想の過剰さが望ましい不可思議な印象を損なっているのではないかと懸念を示した。彼はこの作品を、より本格的な長編小説に挑戦するための練習だと考えていた。
本作品の評価は分かれており、ラヴクラフトの熱烈な支持者の中にも、読むに値しないと考える者がいる一方で、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』、ジョージ・マクドナルドの幻想譚に匹敵すると評価する者もいる。
影響源としては、ウィリアム・ベックフォードの『ヴァテック』(1786年)が大きいと考えられる。両作品とも章分けのない異国情緒豊かな幻想譚である。また、ジョン・ウリ・ロイドの『Etidorpha』(1895年)からも影響を受けている可能性がある。
本作はラヴクラフトのそれまでの「ダンセイニ風」作品の多くを統合しようとした試みだが、この統合によって一部で混乱も生じている。特に、先行作品の舞台を幻夢境に持ち込んだことで、時間軸の矛盾が生じている。
また、本作は以前ラヴクラフトが構想していた1922年の『アザトース』のテーマを逆転させたものと考えられる。『アザトース』が現実からの逃避を描いているのに対し、本作では最終的に現実の価値を再認識する展開となっている。
この作品におけるダンセイニ風語法の復活は、ロード・ダンセイニへの拒絶とも解釈できる。ラヴクラフトの創作観が、装飾的で人工的な文体から、より現実に根ざした美しさの追求へと移行する過渡期の作品として位置づけられる。ニューイングランドでの2年間の離別を経て、ラヴクラフトは地元の風土の価値を再認識し、それが本作に反映されているのである。
- ランドルフ・カーター…カーターの最初の冒険のため若いと思われる
- クラネス王…すでにセレファイスの王になっている
- リチャー・ドアプトン・ピックマン…
- アタル…ウルタールの老祭司
- バルザイ…空に吸い込まれた賢者
- ナシュトとカマン=ター…ドリームランドに続く深き眠りの700階段を守っている人
- ナイアルラトホテップ
- レンの住人
- 食屍鬼
- ムーン・ビースト
- ウルタールの猫
- ドール
- ナイトゴーント
- シャンタク鳥
- シャンタク鳥の長…グロス=ゴールカと思われる
- ズーグ族
- ガレー船の交易商人…レンの住人の一人
- スニレス=コ…月の裏側を見た唯一の夢見人
- ワンプ
- ガグ
- ネヘミア・ダービイ大佐
- ノーデンス
- 狩り立てる恐怖
【舞台】
- ドリームランド
ランドルフ・カーター、幻夢の探索者。彼が追い求めるのは、かつて夢に見た神秘の「夕映の都」。その旅路は、幻夢鏡の果てなき迷宮へと彼を導く。
ズーグ族との出会いが始まりだった。それから、ウルタールの大神官アタルから得た知恵、そしてオリアブ島のングラネク山。カーターの冒険は、現実と夢の境界を揺るがしていく。
月の蟇じみた怪物たちに捕らわれ絶体絶命に陥るも、猫たちの助けを得て脱出。かつて人間だった食屍鬼、リチャード・アプトン・ピックマンとの再会。彼らの力を借り、ガグとガーストの恐るべき王国を越える。
セレファイスのクラネス王、インガノクの目つきの悪い商人、そしてレンの名状しがたき大神官。カーターの前に立ちはだかる存在たちは、彼の想像力をも凌駕する。
食屍鬼と夜鬼の軍勢を率い、カーターは遂に大いなるものどもの城に到達する。そこで待ち受けていたのは、蕃神の使者ナイアルラトホテップ。彼が明かす「夕映の都」の真実とは—。
カーターの壮大な冒険は、人間の知覚の限界を超え、宇宙の秘密に迫る。