本作は2,550語の短編で、1920年11月初旬の執筆と推測される。初出はソニア・グリーン編集発行のアマチュア誌 The Rainbow (1922年5月号)で、Marvel Tales (1934年5月号)と Weird Tales (1939年6・7月合併号)に再掲載された。単行本では O に初収録され、校訂版は D、詳註版は CC に収められている。
ラヴクラフトによると、この作品は彼の『備忘録』の項目(#10)「都市上空を飛び回る夢」に基づいているという。また、別の項目(#20)「男が過去を旅する——あるいは空想上の領土を——抜け殻となった肉体が後に残る」も着想源となった可能性がある。
構想面では、この物語はロード・ダンセイニの「トーマス・シャップ氏の戴冠式」(『驚異の書』1912年)と非常に類似している。ダンセイニの作品では、あるビジネスマンが自身をラーカー王だと夢想し、現実世界での生活が破綻して精神病院に収容されてしまう。
夢の中で断崖から降りてくる騎馬のイメージは、アンブローズ・ビアーズの「空を飛ぶ騎士」(Tales of Soldiers and Civilians、1891年)の結末を想起させる。ビアーズの作品では、ある男性が騎士を撃った後、馬が空を駆けるように見えたという描写があり、実は撃たれたのは彼自身の父親だったことが明かされる。
クラネスは『未知なるカダスを夢に求めて』に、全く異なる設定で再登場する。同様に、インスマスもこの作品では英国の都市として描かれているが、後の作品ではマサチューセッツ州の荒廃した港町に変更されている。
- クラネス…セレファイスの創造主
- 笑い続ける有翼の存在…おそらくナイトゴーント
- ナス=ホルタース
- アティブ…クラネスを案内した船長
- 菫色の気体…神格
【舞台】
- ロンドン
退屈な現実に絶望した男、クラネス。彼は麻薬と夢の中に、自らの魂の安息地を求めていた。そんな彼が見出した奇跡の都、セレファイス。オオス=ナルガイの谷に佇むその都は、クラネスの幼き日の記憶に深く刻まれていた。
温かな海風に包まれ、一瞬の永遠を過ごした幼年期の夢。その記憶は、現実世界の苦しみを忘れさせるほどに鮮やかだった。だが、目覚めたクラネスを待っていたのは、冷たいロンドンの屋根裏部屋。二度と戻れないと悟った瞬間の絶望。
以来、クラネスの夢は様々な不思議な土地を彷徨った。しかし、最も望んだセレファイスだけは、彼の前に姿を現さない。現実逃避の手段だった麻薬は、やがて彼の生活を蝕んでいく。
財産を使い果たし、アパートからも追い出されたクラネス。希望を失い、通りをさまよう彼の前に突如として現れたのは―。
失われた理想郷への果てしない憧れ。 現実世界の苦しみと、夢の中の至福を描いた物語。